図1に示すように、水平な床面上に質量 $m$ の物体 A を置き、軽いばねを取りつける。
ばねが床面と水平になるように、ばねの他端の壁に固定する。
物体Aは図の $x$ 軸上を運動し、その位置を座標 $x$ で表す。
ばねが自然の長さ $\ell$ のとき物体A の位置を原点 $x=0$ にとり、
ばね定数を $k$ とする。
物体A と床面との間の最大静止摩擦係数を $\mu'$ 、動摩擦係数を $\mu$ とする。
また、重力加速度の大きさを $g$ とし、ばねの質量は無視できるものとする。
原点Oからの距離が $d$ より小さいとその位置で静止しているが、 $d$ を少しでも超えると、
物体Aは滑り出すとする。
このとき、図2より、
$$\mu'mg - kd = 0 \cdots(ア)$$
$$\therefore d=\frac{\mu'mg}{k} \cdots(イ)$$
が成立する。
いま、$x = x_0~( > d)$ の位置まで引き伸ばし、静かに放した(図3)。
このとき、運動方程式は、
●『左に進行している』(図4)とき、
$$m\frac{d^2x}{dt^2}= -kx+\mu mg$$
$$\therefore \frac{d^2x}{dt^2}= -\frac{k}{m}\cdot\left( x - \frac{\mu mg}{k}\right) \cdots(ウ)$$
(ウ)において、$x-\dfrac{\mu mg}{k}= X$ とおくと、
$$\therefore \frac{d^2x}{dt^2}= -\frac{k}{m}\cdot X \cdots(エ)$$
となり、
$$振動の中心は x= \frac{\mu mg}{k}$$
となる。
また、折り返す前までに
$$\frac{\mu mg}{k}\times 2 = \frac{2\mu mg}{k}~だけ移動距離が減少する。$$
●『右に進行している』(図5)とき、
$$m\frac{d^2x}{dt^2}= -kx-\mu mg$$
$$\therefore \frac{d^2x}{dt^2}= -\frac{k}{m}\cdot\left( x + \frac{\mu mg}{k}\right) \cdots(オ)$$
(オ)において、$x+\dfrac{\mu mg}{k}= X$ とおくと、
$$\therefore \frac{d^2x}{dt^2}= -\frac{k}{m}\cdot X \cdots(カ)$$
となり、
$$振動の中心は x= -\frac{\mu mg}{k}$$
となる。
また、折り返す前までに
$$\frac{\mu mg}{k}\times 2 = \frac{2\mu mg}{k}~だけ移動距離が減少する。$$
************************
以上より、
$$『片道につき \dfrac{2\mu mg}{k} ずつ移動距離は減少する』\cdots(キ)$$
【 減衰振動 】の運動をし、
折り返しが $n$ 回行われた後の折り返し点 $X(n)$ は、
$$|X(n)| =|x_0| - \frac{2\mu mg}{k}\times n \cdots(ク)$$
そして、
$$|X(n)| \leqq d となると、静止する。$$
************************
また、(エ)、(カ)より、角振動数を $\omega$ とすると、
$$\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}$$
であり、
$$\therefore 周期T = \frac{2\pi}{\omega}=2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} \cdots(ケ)$$
となる。
これは、Aが左に進む場合と右に進む場合とで、
振動の中心は異なるが、
$$減衰振動でも、周期に影響はない$$
という事を示している。
ここで、エネルギーについて考えよう。
(ウ)、(オ)より、
$$\frac{d^2x}{dt^2} = -\frac{k}{m}x \mp\mu g$$
$$\frac{dx}{dt}\cdot \frac{d}{dt}= -\frac{k}{m}\cdot x \mp\mu g$$
$$\frac{dx}{dt}\cdot \frac{d}{dt}\cdot dx= -\frac{k}{m}\cdot x\cdot dx \mp\mu g\cdot dx$$
$$\int\frac{dx}{dt}\cdot \frac{d}{dt}\left(\frac{dx}{dt}\right)\cdot dt= -\frac{k}{m}\int x\ dx \mp\mu g\int dx$$
ここで、
$$\frac{dx}{dt}=v$$
とおくと、
$$\frac{1}{2}v^2 = -\frac{k}{m}\cdot\frac{1}{2}x^2\mp\mu g x + C$$
$$\frac{1}{2}mv^2 = -\frac{1}{2}kx^2\mp\mu mg x + C_1$$
よって、
$$\therefore \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2\pm\mu mg x ~=~ 一定 \cdots(コ)$$
が導かれる。
これは、
$$力学的エネルギー保存の法則は成り立たない$$
が、
$$『外力のした仕事』を含めると、エネルギー保存が成立する。$$
という事を示している。
言い換えれば、
$$外力がした仕事の分だけ力学的エネルギーは増減する$$
ということである。